2016年2月5日金曜日

映画「インサイドヘッド」感想 歩き出す瞬間

気になっていたピクサーの最新作。ようやく年末に観ることができた。マイベスト映画10とかマイベストコミック10とかを一人で考えてあーでもないこーでもないと順位付けをする趣味なんだけど(く、暗い)、これは間違いなく押しも押されぬ2015年のベスト映画だ。人の頭の中では、様々な感情を司る妖精や記憶を司る妖精が活動していて、その結果として人の行動や感情や記憶が決定されている、そんな世界観に基づく人の頭の中を描いていて、喜んだり悲しんだりする理由や、突然昔のことを思い出したり忘れたり、あるいは夢を見たりする仕組みについて、とても面白い見方を与えていた。カールじいさんと同時上映だった「Partly Cloudy」という短編でもそうだったが、ピクサーはこういうふとした思いつきを生き生きとしたアニメーションとして活写するのがうまい(Partly Cloudyも実に素晴らしかった、天才だと思った)。

シナリオも本当に良かった。トイストーリー3などと同じく子供の成長をテーマにしていて同じ年頃の子供を持つ親として本当に心を揺さぶられたし、文字通り涙無しでは観られなかった。小さく、幼く、言ってみたら夢の中で暮らしていた子供が、ある時そんな夢の世界を卒業して、小なりといえど社会の中で歩き出す。そんな瞬間を丁寧に描き出している。そういう瞬間は、現実の世界では本当に些細な一瞬なんだけど、子供の中ではまさに大事。現実での出来事と、脳内での出来事を交互に描写するこの作品にとって、この舞台設定は実に的確だった。

子供と話をしていて、親の意識からすると本当についこの間の事なのに、子供の方はもうすっかり忘れてしまっているような事がたくさんあって、時々驚く。よく読んであげたお気に入りだった本や、歌った歌や、旅行に行った場所や、印象的だったイベントや。その分沢山の事を猛烈な勢いで経験して、覚えて、学んで、子供たちは猛烈な勢いで大人になっていく。親にとって子供の成長は生きる意味だし、人生の喜びそのものだけれど、小さかった頃の子供は思い出の中にしかいないし、共有していた記憶も成長の中に消え去っていく。誰も彼もが、もう戻れない不可逆の道を足早に辿っている。

大好きな小沢健二の曲、「さよならなんて云えないよ」にこんな歌詞がある。話の最後に、これを。

『南風を待ってる 旅立つ日をずっと待ってる
“オッケーよ”なんて強がりばかりをみんな言いながら
本当は分かってる 2度と戻れない美しい日にいると
そして静かに心は離れてゆくと』

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